脊 髄 損 傷
疾患名 | 脊椎損傷・脊髄損傷 |
発病頻度 | 稀である |
初診に適した科 | 整形外科・救急部・救命センター |
初期診断・急性期治療に適する医療機関 | 総合病院・大学病院・特殊専門病院・研究機関病院(大学病院) |
安定期・慢性期治療に適する医療機関 | 中小規模病院・特殊専門病院・研究機関病院(大学病院) |
入院の必要性 | 原則的に必要 |
薬物治療の目安 | 原病に対しては、不要な事が多い |
手術の可能性 | 重症度や症状により必要 |
治療期間の目安・予後( 予測される病気の推移や治療に対する反応 ) | 病気の進行度などにより治癒の期間,可能性が大きく異なる |
診断・経過観察に必要な検査 | 単純レントゲン・造影レントゲン・CT検査・MRI・筋電図 |
ж 脊髄とは? ж
脊髄は長く、傷つきやすい管状の構造物で、脳幹の下端から背骨の一番下(脊柱)まで続いている。
脊髄にある神経は、脳と身体のその他の部分との間でやり取りされるメッセージを運んでいる。
脊髄はまた、膝蓋腱反射などの反射中枢でもある。脳と同様に、脊髄も3層の組織(髄膜)で覆われている。
脊髄と髄膜は、脊椎の中央を通っている脊柱管の中にあり、大半の成人では、脊椎は26個の椎骨から出来ており、
それぞれが背骨を構成している。
頭蓋が脳を保護している様に、椎骨は脊髄を保護している。
椎骨の間は、軟骨で出来た椎間板で隔てられており、
歩行やジャンプ等の動きから生じる衝撃を和らげるクッションの役目をしている。
ж 脊椎の構造 ж
脊椎(脊柱)は、椎骨と呼ばれる骨が連なって出来ており、この脊椎の中心を通る脊柱管の中には、
長くて傷つきやすい脊髄があり、椎骨によって保護されている。
椎骨と椎骨の間には軟骨で出来た椎間板があり、脊椎への衝撃を和らげるクッションの役目を果たしている。
脊髄からは、椎骨と椎骨の間を通って31対の脊髄神経がそれぞれ、前後2本の短い枝(神経根)に分かれて出て行く。
脊髄の前側にあるのが運動神経根、後ろ側にあるのが感覚神経根。
運動神経根は脳と脊髄からの命令を、身体の他の部分、特に骨格筋へ伝え、
感覚神経根は身体の他の部分の情報を脳へ伝えている。
脊髄は、脊椎の下方約3/4の位置で終わり、
そこから下へは神経の束がひと束伸び、この神経の束は馬の尾に似た形をしている為、
馬尾と呼ばれており、下肢の運動・感覚を伝える。
脳と同じ様に、脊髄も灰白質と白質で構成されている。
蝶の様な形をした脊髄の中心部には、灰白質があり、蝶の羽の前部にあたる部分(角と呼ばれる)には、運動神経が集まっていて、
これらの神経は脳や脊髄からの情報を筋肉へ伝達し、運動を起こさせる。
後側の角には感覚神経が集まっており、これらの神経は、身体の他の部分からの感覚情報は脊髄を通り脳へ伝えている。
周囲の白質には、何本もの神経線維の束が通っており、身体の他の部分からの感覚情報を脳へ運んで(上行路)
逆に脳から出される電気信号を筋肉へ伝えている(下行路)。
ж 椎骨の損傷領域とその影響 ж
脊椎(脊柱)は、頸椎(首)胸椎(胸)腰椎(腰)仙椎(骨盤)の4つの領域に分けられる。
各領域は頭文字のアルファベット(それぞれC,T・Th,L,S)で表記され、
各領域の椎骨には、上から番号が付けられており、
例えば1番上の頸椎はC1、2番目の頸椎はC2、2番目の胸椎はT2、4番目の腰椎はL4となる。
脊髄神経は脊髄から出て、それぞれ身体の特定の部位と繋がっており、
その為、筋力低下や麻痺などの機能喪失(神経の損傷)が身体の何処に起きたかに着目すれば、
整形外科医や神経外科医など医師は、どの脊椎に損傷が生じたかを特定する事が出来る。
脊髄の長軸方向に沿って31対の脊髄神経が椎骨の間の隙間から出て、全身の神経と繋がっている。
感覚神経根を持たない第1脊髄神経以外の脊髄神経は、それぞれ2つの神経根を持ち、
前側にある神経根は運動神経根で、脊髄から筋肉へ信号を伝達している。
後側にある神経根は感覚神経根で、触覚,位置,痛み,温度の感覚情報を身体から脊髄へ伝達している。
脊髄は高度に組織化され、同様の機能を持つ神経経路はグループ化されており、
情報を筋肉に伝えて運動を起こさせる運動神経グループと、感覚情報を脳へ伝える感覚神経グループに分かれる。
さらに、これらの運動神経と感覚神経はそれぞれ脊髄神経の運動神経根と感覚神経根に繋がっている。
脊髄の持つ組織と機能の為、脊髄が傷つくと様々なパターンの症状を起こす。
背中の痛みだけでなく、痺れ・脱力・感覚消失・腸と膀胱の機能損失・麻痺(まひ)等がある。
これらのパターンにより、脊髄が損傷した部位を決める事が出来る。
ж 受傷原因 ж
脊髄の障害には、外傷性の場合が一番多く、外傷性脊髄損傷の原因は交通事故が第1位で、40%を超える。
中高年では自動車事故が多く、若年者では単車事故が多い傾向にある。
交通事故に次いで、高所からの転落,転倒,スポーツ等の順となっている。
近年では、スノーボード等新たな受傷原因となるものも出てきており、
受傷原因は変化しており、事故の防止、
万一事故にあった際の身体の保護の重要性が増している。
交通事故による受傷では、単車事故を見逃す事が出来ない。
件数自体は自動車によるものより少ないが、
単車人口自体、自動車人口と比較した場合、圧倒的に少なく
率としては自動車事故より高くなると思われる。
単車による受傷の防護策としては、
『 フルフェイス型ヘルメット,単車用グローブ,ライディングブーツ,プロテクター及びプロテクター内臓ウェア 』等
装備したうえで、乗車する事が望ましい。
外傷性脊髄損傷の原因 | % |
---|---|
交通事故 | 43.7 |
転落 | 28.9 |
転倒 | 12.9 |
落下物など | 5.5 |
スポーツ事故 | 5.4 |
自殺企図 | 1.7 |
その他 | 1.9 |
【 外傷以外の受傷原因 】
脊髄麻痺の20% ~ 30% が外傷以外によるものである。
後天性に発生する原因が主であり、
脊髄の炎症・腫瘍・血管の異常など脊髄に関係した疾患で発生している。
また、加齢により変形性頸椎症や後縦靭帯骨化症などの発現により
脊髄周辺の組織に異常が生じ、脊髄が圧迫される事が原因や遠因となる。
この状態で転倒すると、頸髄損傷を簡単に誘発しやすいといえる。
先天性の原因は脊椎や脊髄の異常によるものが多い。
〈 先天性 〉
二分脊椎,脊椎奇形,頭蓋底陥入
〈 後天性 〉
〔 炎症 〕
脊髄炎,髄膜炎
化膿性脊椎炎,脊髄硬膜外膿瘍
慢性関節リウマチ
〔 血管異常・血行異常 〕
動静脈奇形,脊髄出血,前脊髄動脈症候群
スキューバダイビング
〔 腫瘍 〕
脊髄腫瘍,髄膜腫,脊椎腫瘍,脊椎癌転移
〔 脊髄変性疾患 〕
脊髄小脳変性症,脊髄空洞症,筋萎縮性側索硬化症
多発性硬化症
〔 脊椎変性疾患 〕
変形性脊椎症,後縦靭帯骨化症,椎間板ヘルニア
〔 中毒症 〕
キノホルム障害
【 スポーツ事故の増加 】
脊髄損傷の5.4%はスポーツ事故が原因であり、その内訳は、84%が頸髄損傷で、胸腰髄損傷より5倍程多く発生している。
諸外国においても、浅いプールや海などへの飛び込みにより頭部を水底に打ち付けるものが多数を占め、
次いでスキー,ラグビー,ハングライダー,格闘技,体操,モトクロス,野球などの順である。
特に若年者に多発している事も特色であり、10代に多い。
水泳の飛び込み事故は他のスポーツ事故と比較すると脊椎骨折を伴う確立が高く、完全麻痺になる確率も高い。
プールや海での飛び込み事故により首の骨が折れ、脊髄が損傷される事故が毎年、青少年に生じており、
その予防をパラプレジア医学会として取り組んでいる。
学会の調査において、1年間に約70~80人が受傷していると推察され、
なかでもプールと海への飛び込みが多く、中学生が多数を占める。
水深1~1.2m前後の深さに急角度で飛び込み水底で首の骨を骨折し、
水深の割に飛び込み角度が急すぎたと後悔しているのが現状である。
脊損予防委員会は「子供たちに注意を促せば確実にこの悲惨な事故をなくす事が出来る」と考えている。
〔 デルマトーム 〕
皮膚の表面はデルマトーム(皮膚知覚帯)と呼ばれる特定の領域に分かれており、
各区分を1つの脊髄神経根の感覚神経線維が支配している。7個の頸椎には身体の左右に8対の感覚神経根があり、
12個の胸椎,5個の仙椎のそれぞれにも、身体の左右に1つずつ1対の脊髄神経根がある。
この他にもう1対、尾骨神経根があり、これは尾骨周囲の皮膚の狭い範囲を支配している。
デルマトームの感覚情報は、感覚神経線維によってそれぞれ特定の椎骨の脊髄神経根へ伝えられる。
例えば腰部,大腿の外側,脚の内側,踵の感覚情報は、坐骨神経の感覚神経線維によって第5腰椎(L5)へ伝えられる。
〈 運動機能 〉 | ||
---|---|---|
支配筋 | 残存機能 | |
C1 ~ C2 | 高位頸筋群 | 首の運動 |
C3 ~ C4 | 胸鎖乳突筋 僧帽筋 横隔膜 |
首の運動 肩挙上・上肢屈曲・外転( 水平以上 ) 吸息 |
C5 | 肩甲骨筋群 三角筋 上腕二頭筋 腕橈骨筋 |
上腕屈曲外転 肩関節外転 肘関節屈曲 肘関節屈曲 |
C6 | 橈側手根屈筋 円回内筋 |
手関節背屈 手回内 |
C7 | 上腕三頭筋 橈側手根屈筋 総指伸筋 |
肘関節伸展 手関節屈曲( 掌屈 ) 手指伸展 |
C8 ~ T1 | 手指屈筋群 手内筋群 |
こぶしを握る 母指対立保持・つまみ動作・手指外転内転 |
T2 ~ T7 | 上部肋間筋群 上部背筋群 |
強い吸息 姿勢保持 |
T8 ~ T12 | 下部肋間筋群 腹筋群 下部背筋群 |
強い吸息 有効な咳 座位姿勢保持 |
L1 ~ L3 | 腰方形筋 腸腰筋 股内転筋群 |
骨盤挙上 股関節屈曲 股関節内転 |
L3 ~ L4 | 大腿四頭筋 | 股関節伸展 |
L4・L5・S1 | 中殿筋 大腿二頭筋 前脛骨筋 |
股関節外転 膝関節屈曲 足関節背屈( 踵歩き ) |
L5・S1 ~ S4 | 大殿筋 腓腹筋 |
股関節伸展 足関節底屈( つま先歩き ) |
S1 ~ S4 | 肛門括約筋 | 排便,排尿コントロール |